札幌地方裁判所室蘭支部 昭和33年(わ)166号 判決 1958年12月08日
被告人 波多野義晴
主文
被告人を懲役一年六月に処する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は昭和二十九年頃から室蘭市輸西町にて妻と共にラーメン屋を営んでいた者であるが、他家の便所の汲取口から用便中の婦女の陰部を覗き見する事に興味を覚え、昭和三十一年秋頃から右覗き見を実行していたところ覗き見だけでは性的満足を得られなかつたため更に婦女の意思に反して猥褻行為をなそうと企て、
第一 、昭和三十二年五月七日午後十一時二十分頃室蘭市輸西町所在富士鉄三ツ橋社宅二二一号ノにA方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のB(大正十一年一月二日生)の臀部に強いて触れ、
第二 、同月十一日午後十一時三十分頃前記三ツ橋社宅二二七号ノろC(大正二年二月十三日生)方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後の右同Cの陰部に強いて触れ、
第三、同年六月十一日午前三時頃前記三ツ橋社宅二〇六号ノにD方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のE(昭和六年十二月二十八日生)の陰部に強いて触れ、
第四、同月十九日午後九時三十分頃前記三ツ橋社宅二二〇号ノろF方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のGの陰部に強いて触れ、
第五、同月下旬午前一時三十分頃前記輸西町所在富士鉄元町社宅一六二号ノほH方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のI(昭和七年八月二十五日生)の陰部に強いて触れ、
第六、同年七月初旬午後九時三十分頃前記三ツ橋社宅二〇六号ノはJ方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のK(昭和六年一月二十二日生)の陰部に強いて触れ、
第七、同年七月二十四日午後十一時頃前記元町社宅一七二号ノいL方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のM(大正十二年十月三日生)の陰部に強いて触れ、
第八、同年八月十六日午後十一時頃前記三ツ橋社宅二二七号ノいN方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のO(大正九年二月四日生)の陰部に強いて被告人の手指を挿入してこれに触れ、
第九、同年八月十九日午後九時三十分頃前記三ツ橋社宅二二四号ノいP方において同家便所の汲取口より片手を差し入れて用便直後のQ(昭和四年六月三日生)の内股に強いて触れ、
以つてそれぞれ暴行を以つて猥褻の行為をなしたものである。
(主要情状)
本件犯行当時被告人には妻子あり、営業上も生活上も通常であり、被告人の心神の状況も格別異常なきにかかわらず、右判示の如く昭和三十一年秋頃から稼業のラーメン屋として夜間判示社宅街等にラーメンの注文品を配達に赴いた際等に婦女の用便姿を垣間見たことから本件犯行を累ねるに至つたもので、判示社宅街の多数の婦女家人等に与えた精神的不安と具体的被害とは相当深刻なものがあつたことが窺がわれる、しかも相当長期間に亘り犯行が繰返され、判示認定外にも同様の被害がありしかのみならず被告人は本件起訴後、本件公判継続中たる昭和三十三年十月十日午後八時頃より同午後九時頃までの間約一時間に亘り室蘭市輪西町二百三十四番地富士鉄(富士製鉄株式会社社宅の意)第一共同浴場の女子用脱衣場附近において、同浴場に出入する婦女の裸体姿を窓側よりひそかに覗き見して軽犯罪法第一条第二十三号違反として検挙せられる等、いまだ悔悛反省の実少きものの如し。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為はそれぞれ刑法第百七十六条前段に各該当し、以上は同法第四十五条の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条によつて犯情重き(二回目)判示第九の強制猥褻の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲で被告人を懲役一年六月に処し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文によつて全部被告人の負担とする。
以上によつて主文のように判決する。
(裁判官 藤本孝夫)